第6話:おぢさんは昔、営業電話を楽しむこころを持っていたことを思い出す

昔ほどではないが、今でも「テレアポ」と言われる電話営業が良く来る。

「テレアポ」と言えば、おぢさんが若かりし頃はすさまじかった。
コンプライアンスがゆるい時代だったのもあるが、今となっては違法行為である
「社名を名乗らない」
「威圧的な態度」
「断っても何度も掛けてくる」
などは当たり前のようにされていた。

当時は家の電話に「○○と言いますが、龍一さんはいらっしゃいますか?」と知り合いを装い、電話を替わると営業であったなんてことは日常茶飯事であった。

当時の私は、そのような電話営業に
「もう少し詳しく聞いても良いですか?」
「それはすごいですね」
「メッチャ良いじゃないですか!」と
いかにも興味があるような素振りを見せ、最終的には買わないという娯楽を楽しんでいた。

向こうはカモが飛びついてきたと意気揚揚と説明し、先ほどまで、まるで苦楽を共にした親友のような話し方をしていたのに態度を一変させ、今度は別れ話を切り出された未練タラタラの恋人のように食い下がり、なぜ買わないのかを問い詰めてくる。
「そもそも、あなたの説明だけで今すぐ契約しろとか無理な話だと思いませんか?」
という問いに対しても
「他の人たちは皆さんされてますよ?あなただけですよ?」と罵られ、
「じゃあ、そちらに行けば良いんですか?」と半ギレでアポイントを取ろうとしてくるのを「来ても良いけど、一度検討するから、その場では契約しないし、契約するとしても、お前からは絶対に買わない。」という私の説明に対し、「話にならない」「時間を無駄にした」と捨て台詞を吐きながら一方的に電話を切られた後、「やはり納得いかない」と掛け直してきた電話に「なぜ営業を掛けてきたお前を俺が納得させなけりゃならんのだ?」いう火に油を注ぐ発言をし、何時間にもわたるディべートを楽しむという、なんとも歪んだ青春時代を送っていた。

何も頭ごなしに否定だけをする訳でもない。
「テレアポ」の方から「説明したいのでお会いできませんか?」という問いかけに応じることもある。

社名を名乗らない女性からの営業電話。
女性からの電話となると、こちらも一層テンションが上がる。
なんでも、当時流行したヒロ・ヤマガタやラッセンなどの展示販売を行っているとのこと。

一旦、待ち合わせをしてそれから販売会場へ向かうという。
待ち合わせをするに際し、「芸能人に例えると誰に似ている?」という私の問いに対し、当時グラビアアイドルをしていた「雛形あきこ」と答える女性。
それは行かなくてはならない。何としてでも。

しかし、待ち合わせ場所にいた女性は「雛形あきこ」とは程遠い。
とりあえず、「自称雛形あきこ」とお茶をしながら談笑。
その後、販売会場にて絵の説明を受けながら、
「ねぇ、この絵とこの絵、どっちが好き?」と「自称雛形あきこ」とイチャイチャしながら、まるで美術館デートをするカップルのようなプレーを楽しみながら、ひと時を過ごす。
「自称雛形あきこ」は要所要所で「ちょっとごめんね。」と席を外す。
きっと上司に進捗を報告に行っているのだろう。
展示会場のラストにはパーテーションで区切られた小部屋に通される。
そこで「自称雛形あきこ」と商談が始まるのだ。

もちろん私は買わないと心に決めている。
「自称雛形あきこ」は絵の素晴らしさと価格がいかに妥当なものかを説明し、何なら、今後その絵の価値が上がるだろうという話をしてくる。

「そもそも原画じゃなくてリトグラフだよね? リトグラフであれば高く感じるし、今後価値がそれほど上がるとも思えない」と頑な私に対し、私が人生で、いかに無駄遣いをしているかというシュミレーションを行い、
「こんなに無駄なお金を使っているぐらいなら、そのお金でこの絵を買った方が全然良い」と「自称雛形あきこ」は私の人生設計をしてくれる。
「あなたには無駄に感じる行いも私にとっては大切な行為です。」と価値観の違いについて昏々とやり取りを行った結果、「もういいよ」と「自称雛形あきこ」から突然の別れを切り出される。
「ありがとう。楽しかったよ」と彼氏ぶる私に対して「私は全然楽しくなかった」と彼女。
さすが女性は常に前を向いている。そんな彼女を遠目で見ながら
「次はいい男を見つけろよ」と、その場を後にする。なんと淡い思い出だろうか。

最近来る「テレアポ」に対し、少しイラッとしながら「結構です」と電話を切るたび、なぜあの頃はあんなにも寛大に「テレアポ」とのひと時を楽しんだのだろうか?と立ち止まって考えることがある。
よっぽど暇だったのか、それとも私が大人になったからなのか。
コンプライアンスが厳しい昨今、そのような人間味の溢れる電話営業は二度とないのだろう。

最近すぐにイライラする更年期気味のおぢさんは、昔を思い出しながらもう少し寛容な心でいなければならないと少し反省するのである。

(2022.02.10:コラム/上野龍一)


【 上野龍一 】
~プロフィール~

1975年4月28日生まれ
新潟県新潟市出身
「有限会社看板の上野」代表

経営者として人生経験を積む傍ら心理学、コーチング、エゴグラム心理分析などを研究。
自らを実験台に実績を繰り返して企業や学生への講師やコーチング、セミナーなどを開催する「可能性創造研究所」を設立。

また、地域イベントの企画、運営をするユニット「ニイガタ工務店」としても活動中。

「働くということは社会に貢献すること」を信条とし、様々な地域活動や企画運営を行っている。