第31話:明日やろうはバカやろうおぢさんは、いつまで経っても学ばない。

「明日やろうはバカやろう」

今日という日は今日しか来ない。
お前は、今日という日を全力で
生きたのか。今日という日を全力で
生きていないお前が明日、今日の
お前を超えられていると思うのか?

自堕落した自分に対し、
意識高い系の自分が問いかける。

それに対して、自堕落した
自分からの返答がこれだ。

「うっせ」

そもそも、明日出来ることを明日
行うことの何が悪いのかが解らない。
今日やらなければならないことを、
今日、精一杯やったうえでの明日だ。
明日出来ることを明日やることと、
今日を全力で生きるということは
イコールではない。
今日という日を全力で生きた結果の
明日だ。その辺りを混在し、論点を
ずらした誹判は納得しかねる。

そんな、どうでもよい自分の中で
行われた「おぢさん会議」の結果、
自堕落したおぢさんの意見が
承認された。

そんなこんなで、おぢさんの
「明日出来ることは、明日の俺よろしく」
という日々が続く訳である。

今や、パソコンは弊社だけではなく、
どこの企業にも欠かせないもの。
弊社のパソコンは古いOSの
ものなのだが、仕事上の機器が、
その古めのOSでなければ
起動しないため、騙しだまし
使っている。弊社だけではなく、
そのような零細企業がまだ多く
あるという事を以前にニュースで
見たことがある。

何よりも重要なのは、パソコン内の
データである。弊社パソコンは
そんな事情も相まっているので、
重要なデータは心配なため、
安全を期するために外付けHDDに
入れていた。

年末ぐらいから、外付けHDDの
起動する音が激しめになっていた。
「あー。そろそろ寿命かなー。」
そうは思いつつも、容量が
まだ半分ぐらいしか使っていないし、
まぁ、いいか。そのうちデータを
パックアップしよう。そう思っていた。

最近、パソコンの調子すぐれない。
そう思っている矢先に、モニター画面が
真っ暗になったまま、機動しなくなった。

「うわー。マジかよ。」

とりあえず、パソコンショップに
持って行き、修理の依頼をする。
その間、仕事もままならない。
出費と時間が痛い。
しかし、確かに痛手ではあったが
こちとら、酸いも甘いも経験してきた
おぢさんだ。多少プンスカは、
するものの、そんなことでは慌てない。
まだまだ余裕である。

この時はまだ。

パソコンが帰ってきた。
よし、今日からまた、一生懸命働こう。

「頑張れ私。今日も可愛い。」

そう自分を励まし、日常の業務に
当たるはずであった。

仕事上の大切なデータが入った
外付けのHDDを接続し、パソコンを
起動する。すると画面上には
「このハードウェアを
フォーマットしますか?」
的な文言が出る。

へ?

フォーマットするってことは
中のデータ、無くなっちゃうよね?
ダメじゃん。

文言も、ろくに読んでいなかったため、
何気なく「はい」を押しそうになるものの、
すんでのところで、回避する。

いやいや。 へ?マジで?
全身の毛穴という毛穴から、
変な汗が噴き出す。
今度は冷静では、いられない。

機器であれば、代替がきく。
なので、そうそうは慌てないが、
データとなれば別だ。
新たに作り直せば良いものもあるが、
作り直せないものもある。
それこそ、見積もりやら、売上やら、
顧客データやら。どうすんの?って話だ。
手のひらのビチョビチョが止まらない。

おぢさんが幼少の頃に、
ファミリーコンピューターが登場した。
言わば、家庭用ゲーム機が本格的に
普及し始めた時代であり、ゲーム機と
共に成長し、歴史を歩んできた世代である。

中でも、ドラゴンクエストは思い出が深く、
特に「ロトシリーズ」と呼ばれるⅠ、Ⅱ、Ⅲは
ガッツリやっていた。Ⅰで初めて、RPGと
いうものを経験し、Ⅱでは50文字を超える
復活の呪文に泣かされてきた。そして、
Ⅲで初めてのバッテリーバックアップによる
「冒険の書」にセーブするという
システムになった。

当時はまだ技術が発展途上の時代。
接触不良などで、すぐにデータが消失する。
リセットボタンを押しながら電源をOFFに
するという儀式が必要なほど、このセーブ
をするという行為は、赤子のやわ肌を扱う
かの如く、もっとも慎重に気を使わなければ
ならない作業であった。プレー中に、
おかあさんが掃除機で、ファミコンを
「コツン!」なんてやった日には、
不気味な呪いの音楽とともに、
【おきのどくですが ぼうけんのしょ1は
 きえてしまいました】と表示される。
私たち世代のおぢさんはトラウマとして
深く心に刻まれている訳である。

あれから、40以上の月日が経つ。
そんな幼少期のトラウマが一気に
噴き出し始めた。

バラモス戦の前にセーブした冒険の書が
【おきのどくですが ぼうけんのしょ1は
 きえてしまいました】となり、絶望を
味わったトラウマが。

なぜ、あの時、冒険書2か3に、
バックアップをしていなかったのか。

あれから40以上が経つというのに、
なぜ、いまだに愚かな過ちを
繰り返すのか。

「明日やろうはバカやろう」

すみません。今日という日を
全力で生きていませんでした。
ごめんなさい。
明日から粉骨砕身の覚悟で
生き抜く所存でございます。

自堕落したおぢさんは
意識高い系のおぢさんに謝罪をする。

この期に及んで、まだ後回しを
しようとするのかと、意識高い系の
自分はじっとりとした眼で、
自堕落したおぢさんのことを
見下すのである。

(2023.04.21:コラム/上野龍一)


【 上野龍一 】
~プロフィール~

1975年4月28日生まれ
新潟県新潟市出身
「有限会社看板の上野」代表

経営者として人生経験を積む傍ら心理学、コーチング、エゴグラム心理分析などを研究。
自らを実験台に実績を繰り返して企業や学生への講師やコーチング、セミナーなどを開催する「可能性創造研究所」を設立。

また、地域イベントの企画、運営をするユニット「ニイガタ工務店」としても活動中。

「働くということは社会に貢献すること」を信条とし、様々な地域活動や企画運営を行っている。