家庭環境のせいなのか、子どもの頃から何気に時代劇が好きだった。
「水戸黄門」「大岡越前」などおぢさんが幼少の頃、夕方になると時代劇の再放送があり、時代劇を見ながら夕飯を食べるということが幼少のおぢさんの実家では日課であった。
その中でも特に好きな時代劇だったのが「鬼平犯科帳」である。
当時、それこそ「水戸黄門」に見られる「勧善懲悪」のザ・時代劇と違い、この鬼平犯科帳は
「人間というのは妙な生きものよ。悪いことをしながら善いことをし、善いことをしながら悪事を働く」
というようなフレーズが随所に出ており、取り締まる側である鬼平こと長谷川平蔵と取り締まられる側である盗賊が、別のものとして捉えられておらず、同じ人間として表裏一体であるということが描かれており、実に興味深いものであった。
そう、人間という生き物は白黒がはっきりしない曖昧な存在といえるのだ。
人間の感情には陰と陽がある。
好きなのに嫌い、可愛いのにいじめたい、大切なのに壊したい。
「愛情と憎悪」「尊敬と軽蔑」
そのような両面感情をアンビバレンス心理というらしい。
アンビバレントであることは、特別なことではない。
コインの裏表のように、心の中には多かれ少なかれ異なる感情が存在する。
それを無理やりに白黒つけようとするから、心に負担が掛かる。
二つの感情を共存するものとして認識せず、どちらか一方を抑圧して見ないようにしてしまうことで、心に葛藤が起こる。
人間の心理は浮き沈みがあるように、この両面感情もその都度の強弱がある。
例えば、親に「勉強しなさい」と言われると「今やろうと思っていたのに!」と六割ほどあったやる気がゼロになった経験はないだろうか?
アンビバレンスな感情が強くなっている相手に何かを強要すると、正反対の行動を取ってしまうものなのだ。
時代劇、鬼平犯科帳における中村吉右衛門演じる長谷川平蔵は曖昧という矛盾を「そういうものだ」と全肯定する。
その上で、自らの役割で決断すべきところは、断固たる態度で臨む。
組織のリーダーとして、そのような「アンビバレンス心理」を理解し、巧みにメンバーのモチベーションを高めていく。
そこに痺れる、憧れる。
人は皆、矛盾する気持ちの中で心が揺れ動いている。
人間とは何と面倒臭い生き物であろうか。
ゆえに面白い。
そんな面倒臭さをこじらせているのが私なのかもしれない。
たとえば、私はどちらかというと偏食な方である。
偏食と言っても
「食べただけで体に支障をきたす」
嫌いな食べ物は少なく、多くは
「食って食えないことはないが、出来るだけ食わないで済むよう立ち回りをする」
という嫌いな食べ物がほとんどである。
その代表が「トマト」だ。
あの何とも言えない食感と独特な青臭さ。
嫌いな人間にしか分らないだろう。
「このトマトは野菜というよりフルーツだよ」とか、「この野菜ジュースはトマトの味がしなくて美味しいよ」と時折、おせっかいをやいてくれる方もいるのだが、余計なお世話と少し不快に感じてしまうことがある。
フルーツトマトだろうがミニトマトだろうがトマトはトマトだ。
野菜ジュースにおいても隠しているつもりであろうが、トマトは激しく主張してくる。
しかしながら、私はケチャップが大好きなのだ。
パスタは必ずトマトソースのものを食べるし、ピッツァはマルゲリータ1択だ。
トマトジュースも絶対に飲まないが、料理に入れるのは全然OKなのである。
嗜好においても、このようにアンビバレントは発生する。
と、もっともらしいことをユーモラスにまとめようとしたが、どうやら、好みのクセが強いだけなのかもしれない。
その他にも、
「別に、あなたのことなんか好きじゃないんだからね!」とツンデレを出したり、生粋のMなので、イジられるのは好きだが激しめにイジられるとブチぎれたりするため、
「あなたはMではなく、ちょいM、どSだ」と日常におけるアンビバレントはおぢさんの中にまだまだ多数存在する。
現代社会では何かと白黒つけたがる傾向がある。
そもそも、日本人は「曖昧なものは、曖昧なものとして認識する」という一つの精神文化があったかと思う。
心とは白と黒だけではなく、様々な色で彩られている。
そんな「白でも黒でもない俺たちはGLAY」という黄金の精神をもったおぢさんは冷静と情熱のあいだというアンビバレンスな日常を今日も楽しく過ごさせていただいている。
(2022.03.18:コラム/上野龍一)
【 上野龍一 】
~プロフィール~
1975年4月28日生まれ
新潟県新潟市出身
「有限会社看板の上野」代表
経営者として人生経験を積む傍ら心理学、コーチング、エゴグラム心理分析などを研究。
自らを実験台に実績を繰り返して企業や学生への講師やコーチング、セミナーなどを開催する「可能性創造研究所」を設立。
また、地域イベントの企画、運営をするユニット「ニイガタ工務店」としても活動中。
「働くということは社会に貢献すること」を信条とし、様々な地域活動や企画運営を行っている。