第21話:おぢさんの中に今年もおばけが降臨する日がやってくる

夏だ。
夏といえばカレー。
そしておばけ屋敷であろう。
毎年、新潟市の古町で行われている
「恐怖のえんとつ村」が今年も開催される。

私が関わらせて頂くようになってから
早いもので4年となる。
最初は友人が「恐怖のえんとつ村」で
お手伝いをする機会があったらしく、
その時の経験が非常に楽しかったと、
ドヤ顔でマウントを取ってきたのが
始まりであった。
そんなに楽しいのならば、
おぢさんも参加したいんですけど!
と半ば強引に裏方さんとして参加をした。
当時は「演劇×おばけ屋敷」という
コンセプトで劇団の方々が主となって
開催されており、私は薄暗い小部屋で
一人待機をし、お客さんが来たら
壁を叩くというのがミッションであった。
おばけ屋敷の誰もいない薄暗い小部屋に
一人で待機は中々痺れる。
今となっては慣れてしまったが、
当時はビビりまくりであった。
しかし、いざ始まるとそんな恐怖心など
あっという間に吹き飛ぶ。

恐怖で悲鳴をあげるJK。
恐怖で肩を寄せ合うJD。
イチャこくカップル。

すべてがキュンキュンくる。
楽しい。楽しすぎる。
過度の興奮、求める絶叫。
「もっと!もっと悲鳴を!」
悲鳴を求めるあまり、
指示された場所以外にも音を
バンバン打ち鳴らし、オリジナルの
恐怖スポットを作ったりして
後ほど演出家の方に
「勝手なことをしないでください。」
と怒られる始末。
心の中では、えなりかずき氏が
降臨してつぶやく。

そんなこと言ったって、
しょうがないじゃないか。

合法的に人を驚かせても良いという、
日常ではあり得ないシチュエーション。
そんなエクスタシーを味わってしまえば
二度と元には戻れなくなる。
こうして、私はおばけ屋敷ジャンキー
として毎年関わることになった。

翌年、今まで設営されていた劇団さんの
スケジュールなどが合わなくなり、
お化け屋敷の開催を取りやめる話が出た。
そうなると一番困るのは、この私だ。
なぜならばお化け屋敷ジャンキーとして
うら若き乙女の悲鳴を聞かなければ、
中毒症状が出る体になってしまっている。
下手をすると、うら若き乙女の悲鳴を求めて
軽犯罪を犯してしまうかもしれない。

「もし、よかったらやりますよ。私。」

後先を考えず、ただ自分の欲望を
満たす為だけに発した言葉。

ただのお手伝いでおばけ屋敷に
参加をしただけだったのに、
そんなこんなで、いつの間にか
「恐怖のえんとつ村」の企画を
担当するようになってしまった。

今となっては、この判断が後々
自分でイベントを立ち上げたり、
新しい事業を行うきっかけとなった。

当時、この英断を下した自分を
褒めてあげたい。

さて、今回のおばけ屋敷は
毎年行われている特設会場ではなく
古町演芸場で行われることになった。
なので、期間も毎年に比べて少々短め。
古町演芸場は開催中のために
準備期間も短め。

さてさて、どうしたものか。

ということで今年のコンセプトは
「謎解き×缶蹴り」みたいな形に
することにした。
参加者が謎を解きながら、
後からおばけが追いかけまわすという
バイオレンスなおばけ屋敷だ。
ちょうど、「デットバイデイライト」
というゲームも流行っている。
リアルでおばけに追いかけ回される。
そんな経験って素敵やん。

人が変わるとコンセプトも変わる。
「演劇×おばけ屋敷」のコンセプトも
いつの間にか外されていた。
私が企画すると、どうしてもホラーの
恐怖ではなく、バイオレンスの恐怖が
勝ってしまう傾向にあるようだ。

だってしょうがないじゃないか。
人間だもの。

相田みつを氏、えなりかずき氏の
言葉がごちゃ混ぜになった感情が
私の中を駆け巡る。

ひとえにおばけ屋敷といっても色々ある。
通路を歩く定番のウォークスルー型。
乗物に乗って進んでいくライド型。
その他にもVR型や3Dサウンド型、
シアター型など、様々なものだ。
予算のある大手さんをみると
非常に作り込まれたものであり、
勉強にもなる。だが、私たちのような
小規模で限られた予算の中で
どのように恐怖をお届けするか。
そして私たちはどのように尖るのか。
そうなると私の発想ではバイオレンスに
行き着いてしまうのかもしれない。
身長190センチあるおぢさんが
いきなり暴れまわる。
それはおばけ屋敷でなくても怖い。
現実世界では、ただのヤベー奴になるが
おばけ屋敷の世界では、そのヤベー奴が
エンターテイメントになる。
現実と空想の狭間。その空間で
楽しんでいただけるように
ご用意をしなければならない。

カタチはどうあれ、
私たちがお届するのは、
恐怖というサービスを提供することで
お客様に楽しんでいただくことだ。
しかし、お化け屋敷ジャンキーの
おぢさんは、よく履き違えて、
「もっと悲鳴を!」と「驚かせてやる」
という気持ちが勝ってしまい、
お客様よりも斜め上の角度をもった
自分本位なおばけになってしまうことも
多々ある。おばけだって人間なのだ。
ただ、一つ言えることは、JAZZと
一緒で、演者とお客様、お互い自由に
セッションし高め合い、良いものを作る。
私の求めるおばけ屋敷はそういうもの
なのかもしれない。

(2022.07.29:コラム/上野龍一)


【 上野龍一 】
~プロフィール~

1975年4月28日生まれ
新潟県新潟市出身
「有限会社看板の上野」代表

経営者として人生経験を積む傍ら心理学、コーチング、エゴグラム心理分析などを研究。
自らを実験台に実績を繰り返して企業や学生への講師やコーチング、セミナーなどを開催する「可能性創造研究所」を設立。

また、地域イベントの企画、運営をするユニット「ニイガタ工務店」としても活動中。

「働くということは社会に貢献すること」を信条とし、様々な地域活動や企画運営を行っている。