第3話:おぢさんはハチに刺された時はとりあえず病院に連絡した方が良いと学ぶ

自分の洗濯物は自分で洗う。

なぜならば私と奥さんの「洗い方の好み」が間逆だからである。

私は洗剤にしろ、柔軟剤にしろ、たっぷり入れるのに対し、奥さんは洗剤少なめ、柔軟剤はむしろ使わない。

柔軟剤を入れると汗等の水分を吸着する力が減るそうだ。

しかし、そうなると、私的に衣服やタオルのゴワゴワ感が気に入らない。

何よりも「汗をかいても臭いをブロック!」と謳われている昨今の柔軟剤を使わないと50代目前のおぢさんの体臭がヤバいことになる。

半日も経たないうちに体内に柴犬でも飼っているのか?
それとも私はソラマメが生まれ変わった妖精なのか?
と思うような豊潤な臭いを周囲にまき散らすことになってしまう。

それならば、自分の物は自分でやりますわ。ということである。

洗濯物を干す時も私はハンガーにかけて干すという、チョットしたこだわりをもっている。

そうすることによって、たたむという手間を省くのと、たたんだ時にできるシワを防ぎ、そのまま仕舞えるので、とても合理的な手法であると自負している。

さて、話を本題に戻す。
先日の朝、仕事へ向かうための支度をしていた。
いつも通り、ハンガーから作業着を取り出し着替える。
何気ない、いつものルーティーンだが、その日は違った。
作業着に袖を通した時、手首に「チクッ」と何かが刺さった。

痛みにも様々ある。擦り傷の痛み。刃物などで切った痛み。針などが刺さった痛み。
その時の痛みは明らかに「何か細い針のようなものが刺さった痛み」であった。

仕事がら、作業時の金属片が衣類に付着していたかな?

それとも木くずとかのトゲでも付いていたかな?と思い、作業着をひっくり返し確認すると「親指ぐらいの何か」が落ちてきた。
「親指ぐらいの何か」は黄色と黒の、いかにも「WARNING」という危険色。

「ブッブブッ」と羽音を立てている。

蜂である。

「んひぃぁぁぁぁ!」
声にならないおぢさんの図太い悲鳴。なぜ蜂?冬場に?部屋の中に?しかも服の中に?
なんでなん?どこから入ったん?部屋に巣があるん?他にもおるん?なんなん?

もうパニックである。
朝から50代目前のおぢさんがフガフガ言いながら騒いでいる。
落ち着け。否、落ち着いていられない。
なぜなら私は幼いころに蜂に刺されたことがあるからだ。
蜂は一度刺されると体内に抗体ができ、2回目以降に蜂毒が体内に入ったとき、もともと身体の中に存在する抗体の作用によって、全身症状が引き起こされ死に至ると。
だからお前は蜂に刺されると死ぬよ。と幼いころから親に脅され生きてきた。

ヤバいヤバい!そういえば何か息苦しくなってきた。心臓がバクバクしている。
なんか目の前も霞んで見える気がする。チョット熱っぽくなってきた気もする。
そんなガッつり刺されていないよな?患部を見ると血がプッくり出ている。

ガッつり刺されてますやん。

このまま死ぬのか?俺?とりあえず病院か?
そういえば、蜂毒ってタンパク質だから熱に弱いって誰かが言っていたよな?
患部を炙るか?やだ!怖い!

もはや思考回路がまともではない。一旦落ち着け。
スマホで「ハチにさされた」と検索。私を刺した蜂はアシナガバチのようだ。
蜂毒は反応時間が早く、刺されてから15分ぐらいには症状が出るとのこと。
症状が早くあらわれるほど重症になることが多く、場合によっては
アナフィラキシーショックを起こす。アナフィラキシーの症状が出てから心停止までの時間は15分ぐらいなので速やかな治療が必要とのこと。

刺されてから、かれこれ30分ぐらい経っている。とりあえず死ぬことはなさそうだ。
しかし、油断はできない。容態が急変するかもしれん。とりあえずは速やかに蜂の確保。
何かがあったら、この蜂から抗体を作るのだ!と、何で知ったのか分からない。
小学生のような知識が私を奮い立たせる。

とりあえず蜂を捕獲して保管しなければ。
丸めた雑誌を片手にアシナガバチとの格闘。
冬場ということもあり、動きの悪いアシナガバチを何とか捕獲し、ビニール袋に保管。

奥さんに蜂に刺された旨と一連の流れを報告し、仕事場へ向かう。

その日は一日気が気ではない。患部はプッくりと腫れ、かゆみがある程度。
もう一度蜂に刺された場合の対処をスマホで調べてみる。

蜂に刺された場合、蜂毒にアレルギーがなければ、刺された箇所に軽い痛みやかゆみ、腫れなどが起こり数日程度で消えていくとのこと。とりあえず大丈夫そうだ。

しかしまだ油断はできない。となり合わせの死がいつ訪れるか、わからない。

精神的に疲労困憊の中、その日は早めに帰宅。

「あの蜂どうした?」と私の問いに
「生きていたから潰してゴミに出したよ」と妻の回答。

晩酌に飲んだビールの味はいつもより苦い気がした。

(2022.01.21:コラム/上野龍一)


【 上野龍一 】
~プロフィール~

1975年4月28日生まれ
新潟県新潟市出身
「有限会社看板の上野」代表

経営者として人生経験を積む傍ら心理学、コーチング、エゴグラム心理分析などを研究。
自らを実験台に実績を繰り返して企業や学生への講師やコーチング、セミナーなどを開催する「可能性創造研究所」を設立。

また、地域イベントの企画、運営をするユニット「ニイガタ工務店」としても活動中。

「働くということは社会に貢献すること」を信条とし、様々な地域活動や企画運営を行っている。