第2話:新潟に住むおぢさんは家電を買う時はなるべく早めに済ませたい

レンジが壊れた。正確に言うとオーブンレンジ。

購入してから7~8年と言ったところだろうか。

当時10万円以上する大きめの少し良いレンジを購入した。

昭和生まれの私には「レンジが回らない」というカルチャーショックは例えるなら、アナログ放送から地デジに変わり、ブラウン管のテレビが薄型になった時以上の衝撃だった。

回らないレンジ!スチーム付きオーブンでヘルシー!なんならパンも作れちゃう!

このオーブンレンジがあれば他の調理器具いらず!オーブンレンジ万歳!

と囃し立てられたオーブンレンジ様も年に一度ぐらい娘が友達にクッキーを焼くためのオーブン機能と残った食事を入れておく箱というのが主たる使い道となった。

ちなみに奥さんの家系は、おかず等の残りを戸棚に入れておくという、奥さんが生まれた地方の風習なのか、お家柄なのかは分からないが、そのような仕来たりのようなものがあり、レンジの中に残り物を仕舞うという習慣は現代版のアレンジとなるようだ。

私はその仕来たりがどうも苦手で、私からすると

「食べ物を腐敗させる儀式の祭壇」

にしか思えない。とくに食べ残しとなれば尚更である。

なので、私が自宅でレンジを使う際には一度、何分か熱した状態にして殺菌してから使うという私なりの儀式があった。

「チン」ができなくなったオーブンレンジはただの箱だ。

「食べ物を腐敗させる儀式の祭壇」だけのために存在した。

という訳で新しいレンジを購入することになる。

前回の反省を踏まえ、必要とする機能は大きめ。回らない。シンプル。

できればオーブン機能が付いていれば良い。予算は3万円程度と設定した。

さて、どこの電気屋さんにしようか。現代らしくネットで買いますか?

と家族会議の中、以前洗濯機が壊れた際に購入した電気屋さんが良いと奥さんからの提案がなされた。

なんでも、その電気屋さんで洗濯機を買う際に担当してくれた店員さんがとても親切丁寧に対応してくれて、おまけに一万円分ぐらいポイントがあるそうだ。

他に選択肢はない。その電気屋さんに向かった。

レンジコーナーには様々なレンジが並ぶ。

さて、とりあえず一通り見てみますか。そう思っていた矢先に

「良かったら何でも質問して下さいね。」と

周りの店員さんとユニホームが違う方が話しかけてきた。メーカーの人だろうか?

私も人に自慢できるような風体の人間ではないし、人を見た目で判断はしたくないが、ユニホームが違う。髪の毛ボサボサ。赤ら顔。かなりの太め。ちょっと清潔感を感じない。

その様子のおかしさに、さすがに身構える。

そもそも「良かったら何でも質問して下さいね。」という聞き方がおかしい。主語がない。

じぁあ、何かい?私が「なぜ、そんなに太っているのですか?」と聞いたらあなたは答えるのですか?だって何でも質問しろって言っただろ?そういうことである。

なぜ私がこんなにもイラっとしたのか。

それは私が更年期のおぢさんだからではない。

それもあるかもしれないが、それには訳がある。

私たちに訪ねてきた店員さんに、どのようなレンジを探しているのかは伝えてある。

大きめ。回らない。シンプル。である。

すると、その店員さんは「現在のオーブンレンジは大変進化しておりまして~」と

2~30万するオーブンレンジを紹介し始める。

おいおい、聞いていたか?大きめ。回らない。シンプル。だぞ?

なんで、スマホにアプリを入れて調理をするレンジを勧めているんだ?

ただでさえスマホパンパンなのに?使わないアプリを俺に入れろってか?

内心では罵詈雑言の嵐であったが、私も大人。

良いですか?私たちの求めているレンジは大きめ。回らない。シンプルです。

ただでさえ容量パンパンの私のスマホに、そのようなアプリを入れる余裕はないのです。

と丁重にお断りさせていただいた。

次に話しかけてきた店員さんは、身なりは小ざっぱりしているが少し胡散臭い。

「このオーブンレンジについて教えて欲しいのですが」

こちらの問いに対して、
「お客様、こちらのメーカーは、あのコロナワクチンを保管する冷蔵庫も製造しているメーカーでして~」とメーカーの説明をしてくる。

なんだ?私の日本語がおかしいのか?
メーカーの説明でなく、製品の説明を求めているのだが。
もう一度製品の説明を求める。

ワット数も800Wぐらいある物が欲しいのですが。

なんなら、パンプレットとかないですかね?尋ねる私。

すると親切なその店員さんは
「少々お待ちください」とスマホでその商品のサイトを見始める。

「あ、大丈夫です。これください。」

結局、店員さんに頼ることなくオーブンレンジを購入した。

大きめ。回らない。シンプル。なかなか気に入っている。

残念な点と言えばワット数が200W、500Wと少ないことだ。

私の「食べ物を腐敗させる儀式の祭壇」を殺菌する儀式の時間が少し長くなった。

(2022.01.14:コラム/上野龍一)


【 上野龍一 】
~プロフィール~

1975年4月28日生まれ
新潟県新潟市出身
「有限会社看板の上野」代表

経営者として人生経験を積む傍ら心理学、コーチング、エゴグラム心理分析などを研究。
自らを実験台に実績を繰り返して企業や学生への講師やコーチング、セミナーなどを開催する「可能性創造研究所」を設立。

また、地域イベントの企画、運営をするユニット「ニイガタ工務店」としても活動中。

「働くということは社会に貢献すること」を信条とし、様々な地域活動や企画運営を行っている。