第4話:新潟に住むおぢさん達は新潟劇王に参加していたらしい

先日、一通のLINEが届いた。内容はこうだ。
「第二回新潟劇王によろしかったら再チャレンジしませんか?」

昨年の話だが、
2021年より新潟劇王という短編劇のコンテストが始まりエントリー団体を探しているという話をひょんなことから耳にした。
やはり、コロナ禍ということもあり、出場者集めも難しいのだろう。
そう思った。
ここで私の悪い癖がでる。
そう、私は「やりたがり」なのだ。

「ヤバい、すげぇ面白そうだ。」

今回が第一回目。
「第一回新潟劇王」ということは「初代劇王」ということだ。
なんて甘美な響きであろうか。
そんな不純な目的で、まるで光に群がる羽虫のごとく、ふらふらと近寄る。
そんな勢いと欲望により、私が活動しているユニット「ニイガタ工務店」で参加することになった。
ちなみに「ニイガタ工務店」というユニットは「新潟を創るのは俺たちだ!」という想いで仲間たちが集まって作ったクリエイティブ集団である。

さて、エントリーをしたのは良いが私は演劇をやったことがない。
演劇という世界のルールというか、型枠がまったく分らないのだ。
勢いでエントリーをしてしまったがどうする?
しかも、一緒に出ようと誘ったメンバーからは、

「セリフが無ければいいですよ。」

という無理難題を課せられている。

やったことのない演劇、しゃべらない演者。
はたしてこれで演劇ができるのだろうか?
すべてがイレギュラーなのだ。
しかし、私も40後半のおぢさん。ここは経験がものをいう。
心身ともに追い込まれ、ご飯を食べても味がせず、まるで砂利を喰っているような経験。

そのような血ヘドを吐いた経験があるおぢさんには、多少のイレギュラーは「面白い」に脳内で変換されてしまうのだ。

そういえば、お笑い芸人のハライチ岩井氏が、
「俺たちは早く売れたいから王道の漫才をやらないで自分たちのシステム漫才を作った」
と言っていた。まさにその通りだ。

私たち素人が、王道の劇団に勝つためには、亜種で飛びきりに尖った「俺たちだけの演劇」をやるしかないのだ。

どうせやるのならば、本気の全力で悪ふざけをしようぜ!
という訳で初めて作るシナリオ、初めての演出をゴリゴリに尖らせまくる。
演劇とは芸術だ。それは自由であり、時には受け入れられないこともある。
ただ、必要なことは「楽しむ」ことだと考える。

時には難解に思うこともあるだろう。
だが、それすら楽しんでもらいたい。
勝手ながら、私の中で演劇をそのように定義づける。

定義はできた。次はシナリオと演出だ。
私たちの演目を例えるならば、鋭利に尖らせた鉛筆の芯。
鋭利に尖っているので触るものを傷つける恐れはあるが、もろく、はかない。
ぜひ、鋭さを怖がるのではなく、楽しんでいただきたい。

そんな、様々な布石を打ちつつ、本番が始まる。

順番は
1.ガチムチの劇団。
2. i-MEDIAで学ぶスターの卵。
3.私たち悪ふざけおぢさん。

場所は新潟演劇の聖地、りゅーとぴあ。
さぁ、ここからが俺たちのステージだ!
やっていることは亜種のくせに、王道の死亡フラグが頭の中を駆け巡る。

結果は惨敗。
芸術というものは、いつの世も受け入れられないものである。

演劇発表後、代表者がステージ上に集められ審査員から総括を頂く。
一人の審査員からは「演劇をバカにしている」と激怒される。

無理もない。
自分たちが本気で取り組んでいる舞台上でおぢさん達が悪ふざけをしているのだから。

しかし、もう一人の審査員からはベタ褒めされる。
「このシナリオを作った方は頭がおかしい。しかし、演劇とはこうでなければ面白くない。そういう面では、ずば抜けている。この演劇は東京などでやるべきだ」と。

審査員票を見ると本日の最高得点と最低得点を叩き出している。
審査員票だけでいえば、ガチムチの劇団に勝っているのである。
ステージ上で40歳を過ぎたおぢさんがガチで怒られたり、ベタ褒めされたり。
物事というのは振り幅が大きければ大きいほど面白い。
ある意味、私の狙いは成功したのである。

終了後に審査員の皆さんが楽屋にきてくださった。
なんでも出場団体の中で一番にご挨拶にきたとのこと。
「会いたかった!楽屋挨拶に一番にきた意味、分りますよね?」
ステージ上で私に激怒した方も笑顔で話しかけてくれる。
なによ。そのツンデレ。好きになっちゃうじゃん。

もちろん、言いたいことは分かっている。
こちらがいくら本気とはいえ、所詮は悪ふざけ。
型破りなことをする。
それをしても良いのは型を持っている人だけなのだ。

私たちには何の型すらない。
「型無し」なのだ。
これは、私たちのセンスに共感していただいたエールなのだ。
私はそう捉えた。

今回、お誘い頂いた一通のLINEを見返し、そんな昨年の情景を思い出した。

「型無し」の私たちだが演劇界から拒絶されたわけではないらしい。
しかし、あのインパクトは初回だから出せたのではないか?

さてさて。今年はどうしたものか?

そんなことを考えている私のワクワクはすでに先走りをしている。

(2022.01.28:コラム/上野龍一)


【 上野龍一 】
~プロフィール~

1975年4月28日生まれ
新潟県新潟市出身
「有限会社看板の上野」代表

経営者として人生経験を積む傍ら心理学、コーチング、エゴグラム心理分析などを研究。
自らを実験台に実績を繰り返して企業や学生への講師やコーチング、セミナーなどを開催する「可能性創造研究所」を設立。

また、地域イベントの企画、運営をするユニット「ニイガタ工務店」としても活動中。

「働くということは社会に貢献すること」を信条とし、様々な地域活動や企画運営を行っている。