第8話:営業電話にホイホイと出向くおぢさんはソコソコ痛い目にあっているらしい

以前、電話営業にあった経験をコラムとして書かせていただいたが、おぢさんレベルになると他にも様々な経験がある。

今回はそんな営業電話から軟禁されたおぢさんの話である。

その営業電話の会社はクレジットカード会社から委託された会社ということだった。
なんでも当時、私のクレジットカードの使い方が優良であり、その優良な方に向けてのお得なサービスを提供する為にセミナーを開催するので来場するようにという、斜め上から目線の、どう考えても怪しい臭いがプンプンする営業電話であった。

まず、クレジットカードを扱っている会社が個人情報を他会社に委託している時点でアウトな気がするが電話先の営業は、そこを逆手に取り、「それくらい信頼がある会社」というところを全面に出す。
「なるほど、行かなくてはならないのか。それならばしょうがない」という天然な部分と
「お得なサービスを受けるか受けないかは別として一度話を聞いてみるのは面白そうだ」
と好奇心からセミナー会場へ行く承諾する。

なぜ若い頃は怪しい話が輝いて見えるのだろうか。
しかし営業電話があってから、セミナー日時が後日になるため、セミナーへ行くのが億劫になる。とくに怪しさ満点の話なので、勢いと熱量が無くなった瞬間に行きたくなくてしょうがない。

「まあ、いっか」
セミナーに行くことを諦める私に対し、「早くセミナー会場に来るように」という電話が鳴りやまない。

面倒臭いが行かねばならない。
何故ならば男が一度交わした約束を反故する訳にはいかないのだ。
と、つい先ほどまで「面倒くせぇ」と反故しようとしていた人間とは思えない考えで、セミナー会場へと向かう。

セミナー会場のホテル先には身なりの綺麗な男性が私のことを待ちかまえる。

ヤバい。怒られるかな?
と気が小さい私は少しビクビクしていたが、その男性曰く「セミナーはもうすでに始まっている。

そのセミナーは途中入場、退席ができない。
なので、「今回は特別に私の泊まっている部屋にて直接内容の説明をさせていただく」
と男性の宿泊部屋へと案内される。

そこから「軟禁」という名の攻防戦が始まる。
まず、営業電話であった「お得なサービス内容」というのが、月々数千円支払うことで、その会社が提供する商品をお安く購入できるパンフレットが郵送されてくるという、私の感覚では、あまりお得とはいえないサービス内容であった。

そのパンフレットには時計や家具などの高級品からシャンプーや洗剤などの日用品まで網羅している。

「頻繁に購入するのであれば確かにお得かもしれないが、滅多に購入しないのであれば割高になるのではないか?」

という問いに対しても、日用品のページを見せ、普段購入しているものと価格を比べていかに安く購入できるかと流暢に説明してくる。

そのような質問は腐るほど浴びているのであろう。

流石だなぁと感心しつつ、
「私は一度使ってから自分に合うものを購入している。なので、使ったことのないものを買うことに抵抗がある」
という私の次なる一手にも
「あなたが今どのようなものを使っているのかは分からないが、商品には自信がある」
と商品の素晴らしさを説明され、
「なぜこの素晴らしい商品がお安く手に入れることができるのかというと、市場の商品は宣伝広告費が価格の半数以上であり、我社の商品は宣伝広告費を使わないため、このような形でお安く提供できる」
とお手本のような返しをしてくる。

「いやいや、そもそも私の質問に答えてくれていませんよね? 私は使ってから商品の善し悪しを判断する人間です。」という返しにも

「だから、購入して使ってみてください!」とお互い譲れない攻防が続く。

さすがに何時間にも渡って軟禁されるとキツイ。
「もう帰りてぇ」心は折れかける。

「時間はたくさんありますのでゆっくり考えていただいても大丈夫です」
「よろしければ何か飲まれますか?」アルコールを勧めてくる男性。
いかん。ただでさえ軟禁され判断力が鈍っているのに、アルコールを入れた日にぁ、負け確定である。

「同じことを繰り返しますが、価格が高かろうが安かろうが、私は気に入ったものを使うので、今使っている日用品について変える気はない。たとえば、服や時計、靴などで人気があって購入が難しいものが手に入るのであれば契約するが、そうでなければ私は契約いたしません」
と一言告げた後、その言葉以外発言しないという防御に全力を注ぐ手段に出た私。

日付はすでに変わっている。
ついに観念したのか、
「では時間も遅いので一度ゆっくり考えてみてください。またご連絡します」
と数時間にわたる攻防の末、ようやく解放される。

後日連絡があった電話に「いりません」と速攻に電話を切る。
「若い頃の苦労は買ってでもせよ」という、ことわざがある。
この出来事が、はたして苦労だったのか?という疑問はあるが、こうして振り返った時に、コラムのネタとしておぢさんの記憶に輝き続ける貴重な経験であることには間違いない。

(2022.02.25:コラム/上野龍一)


【 上野龍一 】
~プロフィール~

1975年4月28日生まれ
新潟県新潟市出身
「有限会社看板の上野」代表

経営者として人生経験を積む傍ら心理学、コーチング、エゴグラム心理分析などを研究。
自らを実験台に実績を繰り返して企業や学生への講師やコーチング、セミナーなどを開催する「可能性創造研究所」を設立。

また、地域イベントの企画、運営をするユニット「ニイガタ工務店」としても活動中。

「働くということは社会に貢献すること」を信条とし、様々な地域活動や企画運営を行っている。